おでんがきらいというお話
2018年7月26日 おでんがきらいだ。というより、おでんの大根がきらいなのである。きらいな理由の一番大きなものは、そのにおいである。大根は強烈で、独特なにおいがある。とはいえ大根が、少量使われているだけであれば、気になるものではない。むしろ、さんまの塩焼きに、大根おろしが少し添えてあるのだったり、小鉢にはいった大根の切り干し煮が、主のおかずのとなりにならんでいるのだったりするのなら、その風味もアクセントとなり、食事に彩を与えてくれる。とはいえ、それをあんなに大きな輪切りにし、ほかの具材といっしょに煮込むとは...?煮汁に、ほかの具材に、おでん全体に、あの独特のにおいがうつってしまうではないか。これは、ほかの具材に対する侵略であるといっても、さしつかえがないといえまいか。これらのようなことを、知人に熱弁してみたところで、返ってくるのは、でも大根はおでんの主役ではないか...という不思議そうな顔だけである。そのようなことが続いたものだから、いまではたんにおでんがきらいだとだけ言って、すませてしまうのだが、しかし大根が文字通り大きな顔をして、おでんの主役の地位にいられるのは、ほかの具材の領域を、侵略しているからに他ならないではないか。こんにゃくを、練りものを、巾着を口に入れたところで、そこに広がるのは、あの大根のなんとも言われぬ奇妙な風味なのである。こんなぐあいだから、さいきんでは大根のために悪評を被るほかの具材が気の毒になってしまって、おでんには大根を入れないことにした。ついでに味付けはしょうゆとだしの代わりに、だいすきなコンソメにしてしまって、具も練り物の代わりにソーセージを、こんにゃくや卵の代わりにじゃがいもやにんじんを、大きく切って入れることにした。かくして私はおでんを、哀れなほかのさまざまな具材を、大根から救い出すことに成功したのである。
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